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ベンチャーファイナンスの視点からみた「うわさのズッコケ株式会社」

ズッコケ三人組という本を知っていますか?

有名なシリーズなので読んだこともある人も多いかと思いますが、読んだことがない方向けに簡単に紹介すると、三人の小学生、ハチベエ・ハカセ・モーちゃんが日々の生活で巻き起こす色々な物語が描かれている児童文学のシリーズで、番外編などを除くと50巻が刊行されています。
基本的に各巻ごとに話が完結するので読みやすく、小さい頃は年2回の新刊の発売日を楽しみにしていました。

50巻もあるので色々なエピソードがあり、面白い話が多いのですが、その中でも名作の呼び声が高い?作品として、「うわさのズッコケ株式会社」という話があります。

話のあらすじとしては、ハチベエ・ハカセ・モーちゃんの三人が弁当や飲み物を売り歩く商売をするという話で、アメリカのレモネードスタンドのように子どもがビジネスをするという内容のものなのですが、特徴的なのは、ビジネスの描写にとどまらず、本のタイトルにもあるとおり三人が「株式会社」を設立し「株」という概念が出てくるところです。

児童文学で商売の話を題材とするというのも珍しいと思いますが、さらに株式会社という概念を登場させたことによって話の奥深さが増し、かつ勉強にもなる本です(実際は登記などをしているわけではないのであくまで概念としての株式会社ですが、株券も発行し擬似的な株式会社として描かれています)。

私は今、財務・ファイナンスに関する仕事をしていますが、株という概念を初めて知ったのはこの本です。この本の影響で現在ベンチャー企業で働いているというのは言い過ぎですが、子ども心に株式会社という教えてくれたのはこの本ですし、大人になってその分野の仕事をしている立場から見ても内容に感心させられる点があり、子どもでも理解できる平易な文章で株式会社のエッセンスを表現しているのはすごいというほかありません。

そんな「うわさのズッコケ株式会社」ですが、普通に読んでも面白いのですが、日々ベンチャーファイナンスに向き合っている立場から読んでみると子どもの頃とは違った学びがあるため、ベンチャーファイナンスの視点から少し内容を解説しようと思います。

児童文学のため、登場人物はほとんど小学生で、主人公の三人はもちろんのこと株式会社の株主もクラスメイトの小学生ですので、以下でエクイティだの資金調達だのという言葉を使いますが、実際はこういう言葉は出てこないので、お子様でも平易に読めると思います。

30年以上前、かつ有名な作品なので心配ないとは思いますが、解説のために少しネタバレも含みます。物語の後半にはほとんど触れていないので以下を読んでも本は楽しめると思いますが、どうしても内容を知りたくない方は本を読んでから見ていただくと良いかなと思います。

それでは以下をどうぞ。

デットによる資金調達

港で釣り人向けに弁当やジュースなどの飲み物を売るという事業アイデアを思いついたハチベエ(おっちょこちょいだが行動力がある。会社のCEO)が仲間のハカセ(頭がよくこの作品ではCFO的な位置づけ)とモーちゃん(気が優しく皆に好かれている。この作品ではセールス・BizDev的な位置づけ)にアイデアを披露して商売をしようと誘うのですが、小学生である三人には元手がないため、小学校のクラスメイト(もちろん小学生)からお金を借りて仕入れの元手とします。

ベンチャー的にいうと最初にデットファイナンスで資金調達をしたということですが、今時のベンチャーだと最初から株式(エクイティ)でのガンガン資金調達をするという会社も多いと思います。ただ、この時点で三人はアイデアしかなく、釣り人に弁当やジュースが売れそうだというのも仮説でしかないため、いかに上手くいく確信があってもエクイティで調達すると高い企業価値(バリュエーション)は望めません。そのため、自分たちの仮説が本当に正しいか、PMF(プロダクト・マーケット・フィット)を検証するのに最初にデット(借り入れ)で調達してアイデアを試すというのは理にかなっているように思えます。

現実の世界でも日本政策金融公庫の創業融資など金利の低いローンがあるので、エクイティで下手に低いバリュエーションで調達するよりもPMFを検証するために最低限の金額をデットファイナンスで調達するというのはありと思います。今だったらアクセラレータープログラムのようなものを経てPMFを検証するというベンチャーもあるかと思いますが、出資などが伴うことも多いので、そもそもデットという選択肢があるということを起業家が認識しておくのは大事なことです。

ただ、本編中のデットファイナンスの金利はハチベエの口約束によって数日で一割というトイチもびっくりの水準となっていますが…

事業拡大のためのエクイティ・ファイナンス

三人組の会社も無事PMF検証が終わり、本格的にエクイティ・ファイナンスで資金調達をすることになります。高い金利のデットをしっかり返済したこともあり、その次の本格的な資金調達につながっています。ベンチャー的にいうとエンジェルラウンド・シードラウンドといったところでしょうか。ただ、この資金調達には失敗があったと思います。

発行済株式数300株(株価100円)に対して創業者三名の持ち分は123株で、持ち株比率は41%となっており、シードラウンドで放出するには大きすぎる割合となっています。これはCFOであるハカセが事業に必要な仕入れ等から必要な資金を3万円と判断しそれが簿価ベースの企業価値となっているためですが、事業モデルの有効性は前回のフェーズで検証されたわけで、あとは資金を投入すれば業績拡大が見込める状況な中で、もう少し将来のキャッシュフロー予測をもとに強気にいっても良かったかもしれません。ベンチャーだったらむやみに高く調達すれば良いわけではなく、実力以上にバリュエーションが高くなりすぎても次回の調達がしにくくなる可能性があるなどデメリットもあるわけですが、シードラウンドというまだ序盤も序盤の資金調達で今後も持分比率が希薄化していくことを考えると、今後の会社運営上の意思決定に支障をきたす可能性があるファイナンスだったかなと思います。資本政策はよくいわれるように後戻りができないので、検討に検討を重ねるに越したことはありません。

資本政策の失敗の影響

実際、この事業の雲行きが後半にかけて少し怪しくなってくるのですが、臨時で開かれた株主総会で大株主達から社長の責任が追求される事態になり、危うく解任されそうになるなど、短期的な業績変動の影響で会社の存続に関わる意思決定が求められるシーンが出てきます。

この株主総会ではCFOであるハカセが会計上は利益が出ている旨説明し事なきを得ますが(このくだりも面白い)、株主の一人である同級生の女の子から

八谷くん(注:ハチベエのこと)、あたしたち相談したんだけど、株券、ひきとってもらおうかっていってるの。それは可能なんでしょ。
(『うわさのズッコケ株式会社』より引用)

のようにさらっと株式買取請求権を行使されそうになっているところは、涙無くしては読めません(大袈裟)。

余談ですが、この女の子は出資にあたり貯金を崩して株式購入に充てており、自身のリスク許容度に合わせて株式投資は余剰資金でやるべきだという個人投資家としての学びもあります。

つぶれてからじゃおそいから、いまのうちにひきあげたいの。あたしたち、わざわざ郵便局からお金をおろしてきたのよ。貯金より、こっちのほうが、有利だと思ったから、あたし、由美や安藤さんに、すすめた責任があるから、ちゃんとしてもらわないとこまるわ。
(『うわさのズッコケ株式会社』より引用)

事態はここから急展開していくため、結末はぜひ本で読んで欲しいのですが、最終的にはお金目当てでこの事業を始めたハチベエが経営の面白さ・やりがいに気がつくことになり、こういったところもベンチャーの醍醐味が現れています。

児童文学なので1〜2時間もあれば読むことができますし、小学校高学年であれば難なく読めるのでお子さんの金融リテラシーの向上や起業家精神の醸成にも役立つのではないかなと多います。

また、物語として面白いだけでなく、事業展開のスピード感や上手くいっていない時も含むベンチャーの醍醐味、そしてファイナンスという視点で大人が読んでも多くの学びがある本なので、未読の方も、子どもの頃に読んだけどそういう視点で読んでいなかったという大人の方にもおすすめです。

ズッコケ三人組シリーズは時流を反映した話もあるのですが、今だったら「ズッコケ三人組のスタートアップ起業」とかもあり得るでしょうか。才能のある高校生・中学生など起業したりするケースはよく聞きますので、小学生の起業が当たり前になる時代もそれほど遠くないかもしれませんし、そこまでいかずとも、子どものうちから経営や金融に触れることができる本や機会がもっと増えると良いなと思います。

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